さて突然ですが質問です。
派遣社員は残業をしてもよいでしょうか? 断ってもよいでしょうか?
もし派遣社員のあなたが今、つらい残業をしているとしたら、それは合法ですか?ちゃんと残業代をもらっていますか?
残業問題には法律の知識と細かな計算が絡んでいて、すこし分かりづらいですよね。
この記事では、今残業に悩んでいるあなたにどこよりも分かりやすく、派遣社員の残業ノウハウをお伝えします。
これさえ知っておけば、あなたも残業のストレスから開放されますよ!
今回分かりやすく解説するために、架空の会社を舞台にストーリー展開でまいります。
ではさっそく行ってみましょう!
Contents
プロローグ
新卒入社から正社員として6年勤めた会社を経て、派遣社員に転向したA子。
正社員時代はとにかく残業が多かった・・・!
NO残業デーは言葉ばかりの努力目標。
親睦を深めるという名の飲み会は終電帰り。
遅れを取り戻そうと休日は家でこっそり内職。。。
仕事を中心に回る生活に嫌気が差し、結婚・出産を機に、子育てが落ち着いた段階で派遣会社に登録した。
憧れの定時帰り、わずらわしい人間関係からの開放、重責を負わないストレスフリーな環境・・・
しかし、そんな憧れもむなしく、現実はそう甘くなかった・・・
「えぇぇ、なんで私、正社員と同じくらい残業してるの!?」
残業いたしません!なんて吐き捨ててみたいけど、断る勇気なんてない・・・
職場の人に嫌味を言われそうだし、派遣切りに合ったらもっと最悪・・・
せめて残業代だけでもきっちりもらいたいけどどうしたらいいの・・・orz
登場人物
派遣社員 矢吹A子(やぶきえーこ)
派遣会社「はたホンライフ」に登録する35歳女性。現在「A&Bソリューションズ」に就業中。口癖は「夢の定時帰り・・・」
派遣会社「はたホンライフ」営業担当 狭間きよし(はざまきよし)
A子を担当する派遣会社の営業マン。日々、派遣会社と派遣社員のフォローで間に挟まれている。口癖は「何か問題ございましたか?」
派遣先「A&B ソリューションズ」マーケティング課主任 常世田三男(とこよだみつお)
A子が派遣されているマーケティング課の主任で、業務の指示命令責任者。仕事に熱く、残業することを厭わない。口癖は「いや〜今日も忙しい」
シーン1 「私、こんなに残業しても大丈夫?」
A子の所属するマーケティング課は、今週のプレゼンに向けていよいよ大詰め。16時が近づくにつれ、A子は気が気でない。


ー 後日 ー



POINT①➡︎派遣先の会社と派遣社員は直接交渉しない
派遣社員であるA子が「残業してもよいのか?」どうかを確認したい場合。 A子は誰に確認すべきでしょうか?
ここが派遣社員が間違えやすいポイントのひとつ。
そこでまず、把握しておきたいのが、派遣社員・派遣元・派遣先の3者の関係。
- 派遣社員・A子←→派遣先・常世田主任
派遣社員のA子の職場は、派遣先である「A&Bソリューションズ」。
毎日の業務内容、仕事の成果チェック、仕事内容の相談など、日々の業務については指揮命令の管理者である常世田主任から命ぜられます。
そのため、A子は業務上の不明点(現在のタスクはいつまで仕上げるのか、どのように進めたらいいのかなど具体的なもの)は、常世田主任に確認しなければなりません。 - 派遣社員・A子←→派遣元・狭間
ここで今回、1番重要な点です。
A子の雇用契約は派遣元の「はたホンライフ」と結ばれています。
つまり、就業時間、給与、そして時間外労働(=残業)といった規則は、はたホンライフとの契約に明記されているということ。
A子が残業してもよいのかどうか、そもそもの契約に関する話ははたホンライフの担当者である狭間に確認をしなければなりません。
まとめると、相談内容の種類によって相談する相手は変わります。
具体的な業務内容なら派遣先の常世田主任、契約に関することなら派遣元の営業担当・狭間。
ここを必ずおさえておきましょう。
POINT②➡︎残業させるには労働条件通知書での明示や36協定が必要
読む前にここだけおさえよう!
- 労使協定(通称:36サブロク協定)・・・残業をさせるために必要な協定。派遣会社と労働組合(または代表者)間で締結する。(労働基準法第36条)
- 労働条件通知書・・・労働基準法に基づいて作成される。派遣会社が派遣社員に対して発行する労働・就業条件を明示したもの。
- 就業条件明示書・・・労働派遣法に基づいて作成される。労働条件通知書と内容が重複する部分もあるので、一体化される場合も多い。
さて、A子の雇用契約は派遣会社である「はたホンライフ」と結ばれていますが、残業に関して契約のどの部分を確認しなければならないでしょうか?
大前提として派遣社員を残業させるには、次の2つの条件を満たさなければなりません。
- 労働条件通知書(兼就業条件明示書)で時間外・休日労働について明示されている
- 派遣会社と労働組合(または代表者)の間で36協定が締結されている
労働条件通知書の時間外労働(=残業)の欄に、無しとなっている場合は問答無用で残業はできません。
また例え時間外労働が有りとなっていても、36協定が結ばれていなければ残業はできません。
もし、この2つの条件を満たさずに残業をさせられている場合は、ただちに契約違反として主張しましょう。
これから新しく派遣契約を結ぶ人は、必ずこのポイントを確認してくださいね。
シーン2 「残業代はいくらもらえますか?」
A子は残業について自分の契約がどうなっているか、派遣元の営業担当・狭間に改めて確認した。





POINT③➡︎1日8時間、週40時間を超えたら割増賃金が支払われる
読む前にここだけおさえよう!
- 法定労働時間・・・1日8時間、週40時間が原則(労働基準法第32条)。
- 所定労働時間・・・就業規則や雇用契約によって決められた労働時間。会社ごとに法定労働時間の範囲内で設定できる。
- 法定時間内残業・・・所定労働時間は超えているが、法定労働時間内に収まる残業。残業代は支払うが、法律上は割増賃金は発生しない(就業規則次第では支払われる場合も有)。
- 法定時間外残業・・・法定労働時間を超えた残業時間。1.25倍以上の割増賃金を支払わなければならない(労働基準法第37条)。
ここで、労働条件通知書のサンプル(就業条件明示書と一体化している場合が多い)をみてみましょう。
(画像引用:厚生労働省HP)
チェックすべきは赤枠の4つのポイント。 書式により文言は異なるのであくまでも一例としてご覧ください。
では、それを踏まえて今回のA子のケーススタディでは 契約は以下のように定めたとします。
所定労働時間 | 10:00~18:00(休憩1時間) =7時間勤務 |
所定時間外労働の有無 | 有り |
基本賃金 | 時給1,000円 |
※法定時間内労働(10:00~19:00の8時間)のうち所定時間外労働(18:00~19:00の1時間)は割増賃金の対象にはならないとする。
※法定時間外残業は125%の割増率の対象とする。
この条件をもとに、とある日に1日10時間働いたと仮定し、図解すると以下のようになります。
所定労働時間の7時間を超えた3時間の残業のうち、1時間は法定時間内、2時間は法定時間外となります。
よって1時間には通常賃金、2時間には割増賃金の残業代が支払われることになります。
就業規則によっては、法定時間内残業でも割増賃金が発生するとしていることもあれば、1日8時間超えても週40時間以内なら割増賃金は発生しないとしていることもあります。必ず自分の契約内容を確認しましょう。
POINT④➡︎残業代の計算方法 〜A子の場合〜
では先ほどの図解をもとに、A子が1日10時間(休憩を除く)働いた場合の残業代を計算してみましょう。
A子の労働条件では、法定時間外の残業は125%の割増率を定められています。
とすると・・・
こうなりますね。
ちなみに月給で支払われている人の場合は、1時間あたりの賃金を「月給÷(1日の所定労働時間×月の勤務日数)」で出してみましょう。 また、深夜労働(22:00~5:00)はさらに1.25倍の割増、休日労働には1.35倍の割増が適応されます。
何度も言うようですが、就業規則によって基準が異なるので必ず確認してから自分の残業代を計算しましょう。
シーン3 「どうしても残業を断りたい場合は?」
労働時間の概念や残業代の計算法がわかって少しほっとしたA子。ただ、契約上残業を明記されている場合でも、どうしても残業できない日だってあるー。






POINT⑤➡︎残業を断る場合は、早めに就業先に相談しよう
正社員同様、どうしても残業ができない日もありますよね。契約上、残業をしなければならない場合でも、もちろん残業を断ることはできます。
断る場合は、社会人として常識の範囲内でフォローしましょう。
- 業務の見通しを立て早い段階で伝える(業務内容に関わるので伝える相手は指揮命令の責任者=常世田主任)
- 体調不良や育児、介護など真っ当な理由を伝える
- 自分の担当分については終えてから退勤するという意思を見せる
もちろん、プライベートな用事で残業できないこともあると思います。だからといって本当の理由を伝えるのはやめましょう。うまく立ち回るのも社会人としてのスキルですよ。
また契約に明記されているにも関わらず残業を断り続けると、信頼を損なうことになります。 契約更新無しだけではなく、ブラックリストに入って新しい派遣先も紹介してもらえなくなるかもしれないので気をつけましょう。
POINT⑥➡︎残業の少ない職種は「受付」「事務」「コールセンター」など
どうしても残業はしたくない!という人は、比較的残業の少ない職種を選ぶとよいでしょう。
例えば、対外的な営業時間がある職種。
「受付」や「コールセンター」などは終了時間が決まっているので業務内容に左右されることは少ないでしょう。
次に、「事務」はデータ入力などノルマがはっきりと見え、実力次第で早く終わらすことも可能です。
派遣会社への登録時に、担当者としっかり希望を伝え、すり合わせておくのが間違いありません。
まとめ
ここまで、派遣社員・A子を例に考えられるケースをストーリー調で展開してきました。
派遣社員が残業する際の判断基準となる契約関係、残業代の考え方、残業のスマートな断り方など学んでいただけたでしょうか?
再度ポイントをおさらいします。
- 業務内容については派遣先、契約内容については派遣元と相談する
- 残業するには、就業条件明示書と36協定の2つが揃っていることが条件
- 残業代は所定労働時間、法定労働時間によって支払われる
- どうしても残業を断る場合は、早めに・正当な理由で・やり切る意思を見せる
とにかくまずは、残業について困っていることや悩みがあったら、派遣元の担当者に相談するのがよいでしょう。
あなたの納得する形で、気持ちよく働けるよう応援しております!